マイクとタマラさんの結婚式


秋のすがすがしい天気に恵まれたその日は、空気の粒子ひとつひとつがきらきらしているように爽やかだった。この日、冴え冴えと晴れ渡った空の下、リッチの親友マイクとタマラさんの結婚式が執り行われた。
式は、彼らのおうちの斜め向かいにある小さな教会で。披露宴はこれまた村の村民ホールを貸しきって行われ、とても家庭的で素朴な式を体験した。


イギリスの結婚式の素敵なところは、『手作り』なところだ。堅苦しくなく、人のぬくもりにあふれている。
結婚式を教会で済ませたあと、向かった小さな村のホールで私たちを迎えてくれたのは、本人や家族がセットしたであろうテーブルたちだった。赤いハート形の風船やグラス、ワインで可愛らしくセッティングされている。二人のアイデアと思われる、なかなか遊び心がある小物まで置いてあり、ウエディングケーキの形をしたシャボン玉セットや、私が感心したのは使い捨てカメラ。『このカメラを自由に回して、わたしたちのお祝いの日を写真に残すお手伝いをしてください。』こんな言葉が添えられていた。


今回ふたりの結婚式でいちばん驚いたのは、なんと食事まで手作りだったこと。
一体、何日かかったんだろう。ゆうに100人以上はいたゲスト全員の食事を。まずは家庭のパーティーで定番の、チーズとパイナップルを楊枝で刺したお摘みから、サーモンの蒸し焼き、ローストビーフまで・・・。手作り料理の数々がビュッフェ風に並べられていた。きけば、両家の親族や親友たちが、二人のお母さんたちを中心に、協力してここ毎日準備してきたそうだ。


そして手作り結婚式の凄さは、ここでは終わらない。なんとウエディングケーキまで、腕に自信のある近所のオバサンが制作する。


通常日本の披露宴では、滅多にない光景も目にした。それは、その日誕生日だった二人の愛娘、エライザちゃんの誕生日パーティーも兼ねていたことである。二人の粋なはからいだ。

今日の主人公であるはずのタマラさんも、娘の招待客の統一に大忙し。2才の彼女の友人は、同い年くらいの子も、たぶん近所の村の子もみんな来てて、ずいぶん大賑わいだった。

村民ホールの別室には、二人からのプレゼントであるパフォーマーのピエロさんも来ていて、子供たちは大喜びだったみたい。

披露宴のスピーチが終わったあと、エライザちゃんのケーキにもロウソクが点灯され、大人も子供もみんなでハッピーバースディを歌った。そういえば、数百人もの大人が、野太い声でハッピーバースディを歌っている様子を見るのも少し、異様な光景ではあったが。二人のためだけど、大切な家族の一員のためにも、みんなで祝いたかったんだなぁ、と本人たちの想いに胸が打たれた。

やっぱり式一つとっても夫婦それぞれ違うもので、結婚式に出席すると、毎回新しい発見や感動をもらう。

あらゆるところで家族全員が協力しあって作り上げた、とても家庭的な雰囲気の式に思わず微笑んでしまった。と、同時にこの家族の結束の強さに、どこか、どしんとくる感動をもらった。この二人なら、一生幸せに家族をつくっていけるよ。そう確信した。



余談


不思議なことに、日本は和洋折衷の結婚式のはずが、イギリスとでは、やはり違う。『結婚式』も、それぞれ国の文化だなぁ、と毎回出席するたびに思う。

ここで、日本ではちょっと珍しい習慣を紹介しよう。

イギリスには、独身最後の夜を花婿は男友達と、花嫁は女友達と飲み明かす慣わしがある。それぞれ、Stag Night(スタグナイト)、 Hen Night(ヘンナイト)、と呼ばれるものだ。そのときばかりは、皆一様にものすごい羽目の外し方で、私もよく観光地や都市でスタグナイト・ヘンナイトの集団を見かける。
ロンドンでも、あの胴の長いリムジンにのって、中で何が起こってるのやら、その小さい窓から身を乗り出し(カチューシャのぽんぽんをピョンピョンさせながら)女性たち(いやヨッパライ、いや動物)が、しきりに路上を歩く男性を中に連れ込もうとしている姿を見かける。まさに悪ノリ・・・。お酒が入ると日本人もイギリス人もおんなじだ〜、と思うのはいつものことだけど。

また、イギリスではもともと、結婚式の費用は花嫁側の家が負担する、という慣わしが今でも続いている。だからタマラさんのところは、家族で協力しあって、食事も手作りにしたのかなぁ・・・と思った。ともあれ花嫁の父は、結婚式のために、娘が小さな頃からこつこつお金を貯めておくそうだ。それって、日本でいう学業資金みたいじゃない?
「大学までは・・・」日本では、将来の学費のため、子供が小さな頃から貯金する親も多いと思うが、イギリスでは普通の家庭が学費のためにお金を貯める、という習慣はなく、大抵の学生はほとんど国からローンを借りて、卒業後に自分で返すのが一般的だ。そのため、授業料が日本に比べてとても安い(ただし、わたしたち外国人学生は別)。日本では、学費は払ってもらうけど、結婚式はカップルが自費負担するのが普通ですよね。

つまり、映画でよく見るようなイギリスの華やかな結婚式は、花嫁の父親がどれだけお金を払ったのか・・・と私はそっちのほうが気になってしまう。あれはフィクションの世界だわ、と勝手に納得する。

それに結婚式会場、という決まったところはなく、みんなそれぞれ好き好きに場所を選ぶことができる。

私の前に住んでいたところでは、小さいころから友人みんなと溜まり場になっていたんだろう、ビリヤードホールで結婚式を挙げているカップルも見かけたし、前回出席した夫婦の場合は、お父さんがメンバーになっているゴルフ場のホールを貸しきっての式だった。ゴルフ場とはいえ、古く伝統のあるところで、イギリスの自然に囲まれ、環境もよく建物も雰囲気があって素敵だった。

場所選びも、自由で堅苦しくない。ようは二人が一番、思い入のあるところを選べばよい。
そんなところが、この国らしくて好きだなぁ〜、と思う。