記憶

日本から本が届いた。庭に続くドアを開け放って、本を読み始める。

夏のはじめ、美術論担当のダン・スミス先生に、「君は、建築についても少し読んだほうがいいよ」と指摘された。そしてこの夏、『近代建築の歴史』という本を日本から取り寄せる。今年もわたしは『家とアートの関係』を探求することを目標に一年を過ごそうと思う。

本当に不思議なことに、私が『家』という空間に興味を持って止まないのは、父が不動産業を営んでいる上に、高校時代、くしくも日本で数少ない、フランク・ロイド・ライトの建築物の中で(厳密に言えば、その所縁のある場所で)学業を学んだ偶然にも育まれた気がしてならない。

今、この本を読みながら、高校時代耳慣れた言葉である『ライト』という名前が。あの当時はただの『音』にも等しく、全く意味を成していなかったコトバが、紙面上を Cross するたび、私の心の中で、ちりちりと線香花火のような不思議な光が放つのを感じる。

今思えば、私が、もう少し早く、美術に出会っていたら。私は好んであの場所にいて、他に何もすることは無くても、人に左右されずに、その奇跡を考え感じ取ることは出来たんだろうか。私は、その何かをまっすぐに吸収することが出来たのだろうか。

記憶の中にぼんやりと残るあの景色を、さまよいながら本を読み進める。