庭

今日、台所からふと見た庭がとても美しかったので報告したい。下には降りずに、そのまま写真を撮った。撮りながら、こうして日々の生活のなかで美しいと思えるものを見つけることが、どれだけ特別なことかと思いをめぐらせた。わたしは、たった今の今まで、それを残しておこうと努力したことがあっただろうか?と。今までは、見つけたときに、見たまま置いてきてしまった。

一戸建てに住んでから思ったのは、庭があるのと無いとでは、大違いということ。我が家の庭は、結して、手入れが行き届いている訳でもないし、水もやってない。最近では降りて行くことすらしない。でもこうして、ふと目に映るとき。それだけで、少し心が軽くなる。大自然でもない、ただの庭なのに。自然の、緑の影響力は、すごいと気づく。

考えてみれば、我が家の近くには『Hackney Marsh』という広い自然公園がある。もうそれは、坂をくだればあるというほど近くだ。Marshとは今、辞書で拾うと「低湿地」と出た。その自然公園の一部は、(イギリスが開催地に選ばれたなら)2012年のオリンピック予定地になっている。

一度リッチと散歩に出かけたとき、橋を渡って入ってみた。あの時は、土が軟らかすぎて、足がドロドロになるのが気持ち悪く、入り口の辺りで退散した。それ以来一度も訪れていない。ただの広い空き地、という印象しか残っていなかった。

ところが最近になって、地域の新聞で『Hackney Marsh』の自然をあんじてオリンピック開催反対をする団体がいることを知った。それによると、『Hackney Marshは貴重な野草や、動物、野鳥などの住処となっている。なのに、現オリンピック案ではその一部を大型駐車場にする計画。これは動植物にとって致命的であり、Hackney Marshの自然形態が、大幅に変化する危険がある。そうやって一度失った自然は帰ってこない。オリンピック開催大反対!』と、このような感じ。

この記事を読んで、ただの広場としか考えていなかったあの場所に、意外にもたくさんの動植物の生きていることに、激しく驚いた。一体あの平野のどこに・・・?!しかし、考えてみる。

そういえば、たしかに。

明け方。まだ空も暗い朝、澄んだ空気を通して、鳥達のさえずりが聞こえてくる。ベッドのなかで、それを聞くだけで、森林浴の4分の1くらいはリラックス効果がある。

夜遅くなると、我が家の庭にはキツネが遊びに来る。別に何も悪さはしない。ただ何匹かで、じゃれているという感じの鳴き声。生まれて初めて、キツネの鳴き声を、ロンドンという都市で聞いた。「コーン、コーン」じゃないのね。そんなにシンプルじゃない。もっと複雑な濁音の入った鳴き声。

今まで一度だけ、ホマートン駅から家まで歩く帰りにキツネを見かけた。全然恐くなかった。日本では妖力があるといわれてますけど、そんな話はイギリスにはちっとも無い。むしろ狩りで狩られるかわいそうな動物、という印象。わたしが見たキツネは、ゴールデンレトリバーくらいありそうで、しっぽがフサフサしていて、かなり大きかった。ロンドンには約一万匹の野生キツネが生息しているという。

どこかで上手に生き抜きしないと、居るだけでカラカラになってしまうようなロンドンの都市で。以前まで住んでいた幾つものフラット達とは、こんなところが大違いだと、この町ををどうも離れる気がしない。わたしは気づかないまま、こんなハックニーの自然に案外支えてもらっているのかもしれない。

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